130年以上続く歴史を味わう。
生まれ変わった軽井沢の名クラシックホテル「万平ホテル」へ

1894年(明治27年)、旧中山道沿いの旅籠「亀屋」を前身に開業した「万平ホテル」は、三島由紀夫やジョン・レノンをはじめ、数えきれない賓客をもてなしてきた日本屈指のクラシックホテルです。
創業130周年を記念し、2023年1月から約1年半にわたる大規模改修・改築工事を実施。2024年10月にグランドオープンしたその姿は、古きよき洋館のたたずまいはそのままに、滞在の心地よさをさらにアップデート。変わらない美しさ、サービスの安心感に新しい風が加わった、唯一無二のクラシックホテルの今をご紹介します。【2026年3月時点情報】

Photo:Tadahiko Nagata
Edit & Text:Misa Yamaji(B.EAT)

このホテルの魅力

  • 1894年創業、130年以上の歴史を紡ぐ日本屈指のクラシックホテル。登録有形文化財のアルプス館を核とした和洋折衷の意匠が美しい。
  • 「修復」の哲学で貫かれた大規模改修。ステンドグラスや軽井沢彫の家具、赤い絨毯など、愛されてきた意匠を忠実に復元。
  • 新築の愛宕館は全室に塩沢温泉の内風呂を完備。24時間いつでも温泉を楽しめる贅沢。
  • 130年以上受け継がれるレシピを守るフレンチ。さらに、ジョン・レノンが愛したアップルパイとロイヤルミルクティーなど、歴史の物語がテーブルに広がる。
  • 「別荘のような」帰属感を生む、マニュアルに縛られない温かいサービス。

「修復」という名のリニューアル

アルプス館外観。

軽井沢駅からクルマで約5分。木漏れ日揺れる森の小道を進んだ先に現れるのが、「万平ホテル」です。
ハーフ・ティンバー様式の欧州風外観と和風意匠を融合した木造3階建て。1936年(昭和11年)に久米権九郎が設計した独自のデザインは、建築当時から多くの人に愛されてきました。2018年に登録有形文化財に指定され、2024年の改修後もクラシックな美しさをそのまま湛えています。

入り口を入ってすぐの階段、赤い絨毯など改修前と変わらないロビー。

改修時、こだわったのはできるだけ既存の美しい建物を活かし、修復することでした。
建物は一度スケルトン状態にしたうえで、耐震補強のため建物全体をジャッキアップ。歪みを補正し、基礎を打ち直しました。ステンドグラスはすべて丁寧に取り外し、きれいに磨いたうえで再利用。階段の手すりの板は使える部分を選び、戻す。建て直すよりもはるかに労力をかけ、積み重ねてきた歴史に敬意を払っているのです。

前身の旅籠「亀屋」の名残を伝えるステンドグラスが階段に嵌め込まれている。

今回の改修で滞在の快適さも格段に向上。断熱材の導入により静粛性と保温性は格段に向上。アルプス館には新たにエレベーターが設置され、カードキーをかざさないと動かない仕組みでセキュリティも強化されました。
グランドオープン後、常連のお客さまからは「改修と聞いて変わってしまうのかと心配したけれど、変わっていなくて安心した」という声が多く届いているといいます。雰囲気や本質は変えずに、中から“洗濯”したようなリニューアル。このホテルを愛してきた人たちの記憶はそのままに、未来へと進化しているのです。

目的や好みに合わせて泊まりたい3つの宿泊棟

「アルプス館」には、36〜57m2の客室が3タイプ用意されています。

敷地内には「アルプス館」「愛宕館」「碓氷館」の3つの宿泊棟があり、全部で86室。それぞれに異なる魅力があり、滞在の目的や気分に合わせて選ぶ楽しみがあります。
ホテルのシンボルである本館アルプス館は、1936年(昭和11年)築の登録有形文化財。ジョン・レノン一家が夏のひとときを過ごした場所でもあります。

「アルプス館」のバスルーム。レトロなタイル張りや猫足のバスタブがクラシックホテルらしい。

リビングとベッドルームに仕切られたセパレート設計はそのままに、全体的にモダンデザインに。猫足のバスタブなどの水回りも一新。枕元のUSBコンセントなど、現代のくらしに合わせた細やかなアップデートもなされています。

窓からの木漏れ日が心地よいリビングスペース。ルームサービスでアルコールやおつまみを注文し、くつろぐのもおすすめ。

一方、丸く温かみのあるペンダントライト、軽井沢彫の家具、昭和初期のすりガラスなど歴史を感じるアイテムはクラシックホテルならではの優雅な時間の流れを感じます。木漏れ日の入る部屋で、シャンパンを片手に読書をする時間はこれ以上ない贅沢なひとときでしょう。

「愛宕館 プレミア」ルームは、45m2。愛宕館には45〜91m2の5タイプの部屋がある。

今回の改修で一から建て替えられた愛宕館は、「万平ホテルのDNAを受け継ぐクラシックモダン」がコンセプト。最大の魅力は、全室に備わった塩沢温泉の内風呂です。「熱の湯」と呼ばれる保温効果に優れたお湯が常時循環しており、24時間いつでも入浴可能。短時間の入浴でもからだの芯から温まり、湯冷めしにくいのが特徴です。

各客室のお風呂は塩沢温泉から運んできた温泉。24時間循環式で満たされている。

冬の軽井沢はとにかく静か。シンプルなしつらえですが、窓の外の森からマイナスイオンが部屋の中まで漂ってくるような清々しさがあります。温泉でよく温まったあと、窓を少し開けて冬の外気に触れる─その贅沢な温度差も、愛宕館ならではの体験です。

上:「愛宕館 プレミア」のリビングスペース。窓の外は森。窓が開けられるのでマイナスイオンたっぷりの風を感じられる。下:宿泊者のみが使える、部屋に置いてある限定のポストカードは持ち帰りも可能。

最上位の「愛宕館 万平スイート」(91m2)は1室限定で、広々としたリビングからアルプス館と中庭を望むことができます。

客室数がもっとも多い碓氷館は、アースカラーを基調とした上品でクラシカルなインテリアが特徴です。アルプス館の雰囲気を受け継いだ「碓氷館 クラシック」、モダンな「碓氷館 スタンダード」は、それぞれにテラス付きのお部屋もあり、さらに1室限定の「碓氷館 碓氷スイート」(90m2)まで、5タイプから選ぶことができます。スイートにはエミール・ガレのアート作品も飾られ、窓の外に広がる森の景色とともに、贅沢な静寂の時間を過ごせます。

伝統と革新が重なるダイニング

赤を基調としたメインダイニングルーム。雰囲気は以前と変わらないが、家具などを一新しモダンな印象に。

アルプス館1階のメインダイニングルームは、ホテルの象徴ともいえる空間です。大きなステンドグラスと格天井のモチーフはそのままに、ダイニングテラス側は窓を大型化して明るく開放的な空間へと生まれ変わりました。

ヨーロッパのオランジュリー(温室)のような雰囲気のダイニングテラス。

床はカーペットからタイル張りに、家具も紫色のアクセントが効いたモダンデザインに一新。開業当初から大切に使われてきた、すずらんが描かれたテーブルウェアやシルバーは健在です。
料理は、130年受け継がれてきたソースやスープのレシピを忠実に踏襲しつつ、「地産地消」を柱とした新しいメニューもラインアップ。
リピーターのお客さまにも人気の、長年変わらない料理は、アラカルトで。中でも人気なのが「仔羊の香草パン粉焼き」と「ニジマスのムニエル」です。どちらも半世紀以上受け継がれてきた名物です。

「仔羊の香草パン粉焼き」。フォンドボーベースのソースを添えて。

仔羊はオーストラリア産の骨付き肉を低温でじっくり焼き上げ、フレンチマスタードを塗ってからオリジナルブレンドの香草パン粉をのせて仕上げる、手間を惜しまないひと皿。ニジマスはひと晩牛乳に漬けて臭みを抜き、たっぷりの油を使って低温で火を入れることで「頭から尻尾まで食べられる」食感に。海産物が乏しい内陸で、ニジマスが「ご馳走」だった昭和初期の食文化を今に伝える、山のクラシックホテルならではのひと皿です。

「ニジマスのムニエル」。添えられたソースは長く受け継がれている万平ホテルのオリジナル。隠し味に醤油が使われている。

熱々のものは熱く、冷たいものは冷たく。添えてあるサラダのレタスもパリッと仕上げてあり、丁寧に仕上げられたひと皿ひと皿からは、お客さまを大切にする思いが伝わってきます。お隣の常連さんとサービススタッフとの会話も、まるで我が家に帰ってきたかのようにリラックスした雰囲気で和みます。そんな温かさも、万平ホテルのダイニングの魅力です。

タイムスリップするような、バーで夜を過ごす

「万平ホテルバー」。重厚感漂うオーセンティックな空間で一杯飲むのもいい。

食事を終えたら、ぜひアルプス館1階のバーへ。
赤い絨毯、格子天井、ベルベット調のカーテンを取り入れた和洋折衷のオーセンティックな雰囲気は、リニューアル後も変わりません。
ここではぜひ名物カクテルの「霧の軽井沢」「軽井沢の夕焼け」を。130周年を記念し、新たにシグネチャーカクテルとして加わった「軽井沢の光」も見逃せません。こちらも未来に続く新しい名物になりそうな予感がします。

山崎や白州のオリジナルラベルヴィンテージウイスキー。ステンドグラスや昔のポスターの図柄がラベルに。白州はショット売りもしている。

万平ホテルオリジナルラベルのヴィンテージウイスキーも注目です。山崎蒸留所の1999年・2000年や白州の1998年など、希少なボトルが保管されています。

進化した美味処

今回のリニューアルで、そのほかのレストランやショップも大幅に進化。連泊してゆっくり楽しみたくなるラインアップです。

カフェで人気のアップルパイとロイヤルミルクティー。「ロイヤルミルクティー」は生クリームが入るのがポイント。夏はテラスでいただくのも気持ちがいい。

日帰りゲストにも人気のカフェテラスは、テラス席が拡張されて広々とした印象に。もちろん、ジョン・レノンが愛した名物の「伝統のアップルパイ」や「ロイヤルミルクティー」も健在。近隣の別荘族の方もわざわざ食べにくるというのも納得の味わいです。

新しく誕生した鉄板焼き・すき焼き「檜」

目の前で調理される臨場感もご馳走の一つ。

2025年4月29日、新たにオープンしたレストラン「檜(ひのき)」は、明治時代に建てられた総檜造りの歴史的建造物をリニューアルして誕生しました。
鉄板焼きのシグネチャーコース「檜」では、信州プレミアム和牛のシャトーブリアンまたはサーロインに加え、活鮑、車海老、帆立貝の海鮮など盛りだくさん。安曇野おろし生わさびや信州りんごのタレなど、信州ならではの工夫も光ります。すき焼きコース(ディナーのみ)は、昭和30年代に、文豪たちが軽井沢でゴルフを楽しんだあとの定番メニューがすき焼きだったというエピソードにちなんだもの。季節営業(4月下旬〜10月下旬)なので、夏にぜひ訪れたい新しいレストランです。

ショップで持ち帰る、万平ホテルの記憶

リニューアルして、カフェの隣に新しくショップが誕生。

カフェテラス隣にリニューアルオープンしたショップは、軽井沢土産にしたい逸品がたくさん並びます。中でもおすすめがオリジナルのプレミアムクッキー缶。限定数につき、購入者が並んで早々に売り切れてしまうことも多いといいます。宿泊者ならオープンと同時に購入できるのも特権です。

人気の「プレミアムクッキー缶」。ショップを覗いて、在庫があったらラッキー。買い求める方で朝から行列ができる人気の品。

軽井沢という文化が生まれる場所で、130年以上の歴史を紡いできた「万平ホテル」。お客さまに寄り添いもてなしてきたホテルには、受け継がれる温かなサービスと、時代に合わせた進化が混じり合い、心からリラックスできる本物の心地よさがありました。
週末旅でも、1週間の長い滞在でも、現代人が羽を休めるのに相応しいホテルです。