坂道を歩けば、修学旅行生のにぎやかな笑い声と、世界各国から訪れた旅人たちの感嘆の声が重なり合う清水寺エリア。京都随一の観光地として、四季を問わず人波の途切れることがないこの界隈に、まるで時が止まったかのような静寂を湛えたホテルがあります。「ザ・ホテル青龍 京都清水」—かつて子どもたちの学び舎だった建物が、今、特別な大人の隠れ家として新たな物語を紡いでいます。【2025年12月時点情報】
Photo:Katsuo Takashima
Edit&Text:Misa Yamaji(B.EAT)
このホテルの魅力
- 昭和8年に建てられた小学校の建物をリノベーションしたホテル。学校ならではのデザインや当時の名残が楽しめる。
- 宿泊すれば誰でも利用できるラウンジは、軽食やスイーツを楽しんだり、窓越しに八坂の塔を眺めたり、もうひとつのお部屋のようにくつろげる。
- 舞妓さんの舞、茶道体験など、ホテル内で楽しめるイベントがあるのがうれしい。ここでしかできない体験が、何よりの京都みやげになる。
- 夕暮れどきには、ぜひルーフトップバーへ。お酒とともに楽しむ、刻々と変わる空と街が織りなす絶景は、大人の京都旅にふさわしいハイライト。
- 人が少ない早朝のお散歩は、混雑する京都を上手に楽しむポイント。徒歩10分ほどの清水寺を満喫したあとは、ホテルに戻ってメインを選べる朝食で、健やかな朝の時間を過ごしたい。
喧噪から一歩、別世界への扉を開く
清水三年坂(産寧坂)から少し下ったところに、そのホテルはひっそりとたたずんでいます。三年坂の石畳を行き交う人びとの喧噪から離れ門をくぐった瞬間、嘘のような静けさが訪れます。
外の世界と隔てられたこの空間に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは、洋館を思わせるモダンな建築です。ベージュの洗い出し仕上げの壁、アーチ型の窓、シンメトリーの構造美。これがホテルとして設計されたものではなく、昭和8年に建てられた小学校だと聞けば、誰もが驚きを隠せないでしょう。
かつての清水小学校。その歴史は、1869年(明治2年)に全国で初めて誕生した「番組小学校」のひとつにまで遡ります。現在の建物は1933年(昭和8年)に建てられたもの。地域の人びとが資金を出し合い、子どもたちのために建てた学び舎は、当時としては驚くほどしゃれた意匠が施されています。現在も外観はほとんど当時のまま。90余年もの間、地域の子どもたちを見守りつづけた建物が、2011年の閉校を経て、ラグジュアリーホテルとして生まれ変わったのです。
子どもたちの記憶が宿る空間で
館内を歩けば、かつてこの場所で過ごした子どもたちの面影があちこちに感じられます。階段の手すりには、小さな手で彫られた落書きがそのまま残されていて、思わず自分の小学校時代を思い出してしまいます。友だちと駆け上がった階段、休み時間にふざけ合った廊下——誰もが持っているそんな記憶が蘇ってくる空間です。
客室は、かつての教室を改装したもの。天井の特徴的な梁、大きな窓枠は当時の構造をそのまま継承しています。広い敷地に全48室というゆとりのある空間もあいまって、どこかヨーロッパのスモールラグジュアリーホテルを思わせます。この、落ち着いたたたずまいは、90年以上の時を重ねてきた建築だからこそ纏うことのできるオーラなのでしょう。
今回はデラックスキングに滞在。窓から優しい光が差し込む部屋は、穏やかな時間が流れています。窓辺にしつらえられたデスクでは、仕事をするのもよし、読書に耽るのもよし。日常の喧噪から離れ、ただ静かに自分と向き合う時間を過ごしたくなるスペースです。
客室は全8タイプ。こぢんまりとした小学校のデザインを存分に楽しみたい方には、元教室の趣を色濃く残すデラックスキングがおすすめです。
一方、京都らしい眺望を堪能したい方には、八坂の塔を望むエグゼクティブツインルームを。広々としたウォークインクローゼットを備え、長期滞在にも最適な造りになっています。どちらを選ぶかは、あなたがこの滞在に何を求めるか次第。それぞれに異なる魅力が、ゲストを待っています。
八坂の塔を望む、至福のラウンジタイム
チェックインを済ませ、部屋で一息ついたら、ぜひ訪れてほしいのがゲストラウンジです。このホテルでは、部屋のカテゴリーにかかわらず、すべてのゲストがラウンジにアクセス可能というのはうれしいポイントではないでしょうか。
ラウンジに一歩入ると、大きな窓の向こうに八坂の塔が目に飛び込んできます。五重塔の優美なシルエットが、まるで絵画のように切り取られた景色を眺めながらくつろぐことができるのは、清水エリアの中心に位置するホテルならでは。
ラウンジでは時間帯によって異なる楽しみが用意されています。
朝はフルーツやシリアル、パンといった軽めの朝食を。午後には各種ドリンクとともに、マカロンや創業200年を超える老舗「鶴屋吉信」の和菓子が提供されます。そして15時からはカクテルタイム。シャンパンやワイン、カクテルを片手に、お酒に合うカナッペやスナックを楽しむことができます。
そして、ぜひ足を運んでいただきたいのが、宿泊者限定の文化イベントです。毎週火曜と木曜の夕刻には、京都五花街のひとつ、宮川町から舞妓さんが訪れ、優雅な舞を披露してくれます。舞のあとには一緒に写真撮影も可能。旅の思い出に、またとない一枚が加わることでしょう。
このほかにも、毎週月曜と金曜には茶道体験、水曜には箏の演奏会が催されています。旅先の限られた時間の中でも、本物の京都文化に気軽に触れることができます。
夕暮れのルーフトップバーで、京都を見下ろす
京都旅での夕食は、お目当ての店を予約している方も多いのではないでしょうか。そんな方にも、夕方ぜひ立ち寄っていただきたいのがホテル4階のルーフトップバー「K36」です。
ルーフトップの特等席から眺める京都の街並みは、格別の一言。夕日が西山連峰に沈んでいく様子を眺めながら、一杯のカクテルを傾けたくなります。名物のジントニックを手に、刻々と移ろう空の色を見つめていると、街がゆっくりとマジックアワーの光に包まれていく様子は見ていて飽きません。
茜色から薄紫、そして藍色へ。空のグラデーションに呼応するように、街のあちこちに灯りがともり始めると、八坂の塔がシルエットとなって浮かび上がり、古都の夜が静かに幕を開ける—。そんな移ろいは宿泊したならぜひ味わいたい、自然とホテルが奏でるとっておきの時間なのです。
早朝の清水寺へ、静寂の散歩道
翌朝は、ぜひ早起きをしてください。
取材をしたのは2025年12月。京都の朝の空気は凛として冷たく、吐く息が白くたなびきます。けれど、その冷たさがかえって心地よい。身が引き締まるような清々しさのなか、ホテルを出て清水寺へと向かいます。
昼間は人波で埋め尽くされる参道も、早朝はまだ静まり返っています。石畳を踏みしめる自分の足音だけが響く道を、ゆっくりと歩いていく。昨今のインバウンドブームで混雑のイメージが強い清水寺ですが、朝の顔はまったく異なります。ホテルから清水寺まで徒歩10分ほど。散歩にちょうどよい距離です。
12月初旬でしたがそれでもなお、境内のそこここに晩秋の彩りが残っていました。朝日が昇りきる前の人のいない清水の舞台——。ここに立つと、この場所が千年以上もの間、人びとの祈りを受け止めてきた歴史の重みを感じずにはいられません。
人がまばらな清水の舞台で、京都の街並みを見下ろしながら、ただ静かにたたずむ時間。それは、ことのほか贅沢なひとときです。
講堂で味わう、京の朝ごはん
散歩から戻ると、ちょうど朝食の時間です。
朝食会場は、かつて講堂として使われていた空間。天井が高く広々としたその場所は、現在ライブラリーとしても機能しています。本棚に並ぶ書籍を眺めながら、ゆったりとした朝のひとときは、いつもとは違う1日の始まりを予感させます。
朝食はハーフビュッフェスタイル。メインは“ブリのしゃぶしゃぶ”などの変わり種から、王道の卵料理などがラインアップ。ホテルのおすすめは宇治の農家が平飼いで育てた鶏の卵を使ったオムレツ。ふわりとした食感、そして黄身の濃厚な味わい。素材のよさがストレートに伝わってくる一皿です。
気候のよい季節には、テラス席へぜひ。鳥のさえずりをBGMに、遠くに見える京都の山並みを眺めながら、ゆっくりと朝食をとれば、ここが京都の街中にあることを忘れてしまうでしょう。
古きよき京都へ、タイムスリップする滞在
「ザ・ホテル青龍 京都清水」には、古きよき京都にタイムスリップしたような、どこかノスタルジックで優雅な時間が流れています。
それは、かつてこの場所で学び、遊び、笑い合った子どもたちの記憶が、建物のそこここに染み込んでいるからでしょうか。
ここだけの雰囲気に魅了され、リピーターが多いというのも頷けます。
また、有名な観光名所へのアクセスのよさと、京都らしい静寂に満ちた滞在の両方が叶うのも魅力。
次の京都旅の候補に、ぜひ加えてみてはいかがでしょうか。