独自の歴史と豊かな自然があり、神事や祈りがくらしとともにある美しい島・伊良部島。長く観光客とは疎遠だった伊良部島に島外の人が訪れるようになったのは、2015年に伊良部大橋が開通してからのことだ。そんな島に宮古初となる外資系ラグジュアリーホテルが誕生したのは2019年のこと。このホテルを囲むのは、ドラマティックな『宮古ブルー』の海、そしてどこまでも続く青い空。滞在を通して地球の美しさを感じることができる。
Photo, Text &Edit:Misa Yamaji (B.EAT)
いくつもの表情を見せる
宮古ブルーに包まれて
宮古空港でレンタカーを借りて、伊良部島を目指して走ること20分。
突然目の前に、コバルトブルーの海を二つに分ける一本の線のような橋が現れた。スーッと伸びているその先は水平線の彼方に溶けている。目の前に広がるのはさまざまな青色が織りなす美しい海。見上げれば抜けるような青空。吸い込まれるようにクルマを走らせれば、一瞬にして気持ちのよい“青”の世界に包まれた。
この橋こそ、宮古島一の観光名所ともいえる、全長3.54kmの伊良部大橋だ。橋の両側の浅瀬は海底が見えるほどの透明度。運がよければ大きな魚やのんびりと泳ぐ亀をクルマの助手席からでも見ることができる。
この橋を渡った先にあるのが伊良部島だ。
伊良部島は、宮古群島のひとつ。実は“宮古島”とひとくくりで認識している人も多いが、宮古島は宮古群島という八つの島からなる群島のなかの一番大きな島を指す。
この宮古群島、伊良部大橋が開通する2015年まで観光客がほとんど訪れることがなかったいわば“隠れた楽園”だった。それが橋の開通がニュースになり、目が覚めるような美しい『宮古ブルー』の海が知られることとなって人気が急上昇。2016年に東京からの直行便が就航したこともあり、宮古島はにわかに開発が進み、大きなホテルも誕生した。
しかし、橋の向こうの伊良部島では今でも、手つかずの自然と祈りとともにある昔ながらのくらしが息づいている。そんな小さな島に溶け込むように建てられた初めてのラグジュアリーホテルが「イラフ SUI ラグジュアリーコレクションホテル 沖縄宮古」だ。
「イラフ SUI ラグジュアリーコレクションホテル 沖縄宮古」は、森トラストグループが創設したラグジュアリーホテルブランド「翠 SUI」とマリオット・インターナショナルブランド「The Luxury Collection®」のダブルブランドのホテル。
「翠 SUI」は、「混じり気のない美しい羽」を意味する「翠」の字が由来。日本各地の美しい自然や独特な文化などをその土地の色に鮮やかに染めて、世界にはばたくという意味が込められている。
ロケーションには非常にこだわっており、その土地の歴史や文化を色濃く感じる土地にしか建てられない、特別なホテルでもある。
「イラフ SUI ラグジュアリーコレクションホテル 沖縄宮古」のたたずまいからも、彼らがこの特別な土地に敬意を払っていることがわかる。伊良部島の南側、サンゴ礁のビーチに面した海岸線をクルマで走ると現れる、サトウキビ畑に馴染む4階建てのシンプルな白い建物は、驚くほどさりげない。
なかに入ると、目に飛び込んでくるのは、プール越しの美しい海。ロビーの大きく開かれた窓からふと入る暖かい風が、南国にいることを感じさせてくれる。
ホテルに篭り
伊良部島の自然と向き合う
客室は58室。約45m2のベーシックなオーシャンビュールームから、プライベートプール付き約119m2のミヤコガーデンスイートまで、全11種類のラインアップ。全室にバルコニーが備え付けられているので、滞在中は伊良部島の風を外で感じながらくつろぐことができる。
オーシャンビューの客室のバルコニーに出て眺める海は、時間とともに移ろいゆく光のなかでその色を何通りにも変化させ、いつまで見ていても飽きない。
ガーデンビューの部屋は、海の気配を感じながらも、南国の植物に囲まれた造り。どこか東南アジアのリゾートホテルのようなプライベート感にあふれている。
ほかには、ドッグフレンドリーの客室がある。犬が家族にいる方なら、次は愛犬とともに訪れるのもいいかもしれない。
さまざまなタイプの部屋があるので、事前にHPを確認し、好みや旅の目的などで部屋を選んで予約をするのがおすすめだ。
インテリアは、外観同様非常にシンプルな造り。いずれの部屋も白基調に余計な装飾はなにもない。それは窓枠が切り取る外の景色が、美しい一枚の絵画のようだからなのだろう。
部屋はさっぱりとしているが、さりげなく置かれている備品やベッドなどはセンスが光る。アメニティはストックホルム発のフレグランスブランド「バイレード」が採用され、ベッドは少し硬めのエアウィーヴのマットレスを使用。長い滞在でも心地よく過ごすことができる。
15時にチェックインしたら、ホテルのガーデンを散歩するもよし、部屋のバルコニーのソファに座り、海を感じて本を読むのもよし。いずれにしても、ここの魅力は宮古群島のなかでも一際美しい『宮古ブルー』の海。まずは、ホテル滞在だからこそ味わえる静かな海を思う存分楽しむのが一番だ。
そして、夕方17時になったらプールサイドへ行ってみよう。天気がよい日は毎日「サンセットディライト」が行われており、プールサイドでスナックとシャンパンが振る舞われる。
シャンパンのお供は、太陽が見せてくれる壮大なスペクタクルだ。
陽が傾きシャンパン色になった空は、一杯飲み終わる頃には真っ赤に染まり、水平線に太陽が刻々と沈んでいく様子を見ることができるだろう。
昼の太陽が照らして輝くどこまでも透明なブルーの海が一転、自らの色を消して赤く空を染める太陽に主役の座を明け渡していく。地球が惜しみなく見せてくれるドラマは素直に感動するに違いない。
沖縄の食文化を
コンテンポラリーな一皿に
ディナーは、メインダイニングの「TIN'IN」で。ダイニングも、三面開口の開放的な造りで海を間近に感じることができ、日が暮れてからも、漆黒の海から届く潮騒が耳に心地よい。
ここでいただける料理は、沖縄料理にインスパイアされたフランス料理だ。
太陽を燦々と浴びた亜熱帯のフルーツ、香り豊かな島ハーブなどの伊良部島の生産者からの食材をはじめ、肉や魚も沖縄県産のものを主に使い、食材のエネルギーを感じる料理に仕立てていく。
例えばこの日に登場した前菜の「麩イリチー」は、沖縄の代表的な家庭料理からヒントを得たもの。
通常「麩イリチー」は麩と卵を絡めて炒めたものだが、ここでは卵に浸した麩に魚と車海老のムースを詰めて焼き、昆布とかつおの出汁とチキンブイヨンを合わせたものに、ほんのり月桃(げっとう)を効かせたスープを注いで登場。
沖縄でも昔からよく食べられていた食材の山羊は、赤ワイン煮込みに。山羊といえば、匂いがきついのではと敬遠する方も多いかもしれないが、この一皿は驚くほど臭みがなく柔らか。
沖縄の食文化を新しいスタイルに昇華したコースは、からだにも優しく、新しい美味に満ちている。
伊良部島を堪能するなら
2泊以上したい
「イラフ SUI ラグジュアリーコレクションホテル 沖縄宮古」に滞在するなら、少なくとも2泊は必要だろう。1日目はホテルから海景を思い切り堪能し、2日目はマングローブツアーや、ダイビングなどアクティブに過ごすのもいい。ホテルでゆっくり過ごしたい派の人には、バリニーズの技法を使ったスパでのマッサージもおすすめだ。
そして、日の出とともに起き、昼の日差しを感じ、ドラマティックな夕日に見惚れたら、夜の星空を堪能することも忘れずに。山や高い建物がないため、水平線から反対の地平線まで広がる夜空に、星がいっぱいにきらめいている。運がよければ、“星降る夜”といいたくなるほどの流れ星に出合える。
このホテルの魅力
- 2019年に誕生。森トラストグループが創設したラグジュアリーホテルブランド「翠 SUI」とマリオット・インターナショナルブランド「The Luxury Collection®」のダブルブランド。宮古島から車で約20分の、伊良部島初のラグジュアリーホテル。
- 美しい海や抜けるような青が特徴的な伊良部島の南側。サンゴ礁のビーチに面した海岸線の奥に、サトウキビ畑になじむように建っている。建物はシンプルで白い4階建て。
- 58室の客室は全11タイプあり、全室バルコニー付きで、島風を感じながらくつろげる。アメニティはストックホルムのフレグランスブランド「バイレード」、マットレスはエアウィーヴを採用。
- メインダイニングの「TIN'IN(てぃんいん)」」では、沖縄料理にインスパイアされたフレンチを提供。地元の食材を使用し、沖縄の食文化をコンテンポラリーなスタイルに昇華したメニューが並ぶ。
- ホテル内の「SUI Spa」では、東洋医学の「心身一如」の考え方を重視したメニューが揃う。のんびり過ごしたいなら、バリニーズの技法を使ったマッサージを受けて、ホテルでゆったりするのがおすすめ。