重要文化財のなかで過ごす時間
時代を超えて愛されるクラシックホテル

東京にはあまたのホテルがあるなかで「東京ステーションホテル」は唯一無二の体験が待つデスティネーションとして、旅の上級者からも支持を得ています。100年前の“東京の顔”は、刻んできた歴史と物語に敬意を払いながらリノベーションを経て、新たな客層を惹きつけています。その魅力を紐解いていきましょう。

Photo:Jun Miyashita
Text:Kiyoshi Shimizu(lefthands)
Edit:lefthands

長い歴史のなかで、
洗練の文化を育んできたホテル

東京駅丸の内駅舎のなかに「東京ステーションホテル」が開業したのは1915年(大正4年)。設計したのは、日本近代建築の父と呼ばれる辰野金吾です。赤レンガが印象的な全長335mの建物は、東洋一の美しさと讃えられました。辰野は美しさのみならず、堅牢であることにもこだわったため、1923年の関東大震災にも耐えました。1945年(昭和20年)の東京大空襲で被災しましたが、ほどなく営業を再開し、戦後日本の成長を支えるホテルとして、訪日外国人や国内の賓客に愛されてきました。2003年(平成15年)には駅舎が国の重要文化財に指定されたため、重要文化財に宿泊できる、国内で最初のホテルとなります。

東京駅は高層ビル化が検討される時期もあったが、「赤レンガ駅舎」の保存を求める声が多く、重要文化財に指定されたこともあり、保存・復原事業が実施された。

「東京ステーションホテル」は多くの文豪に愛されました。特に知られているのは、松本清張の小説『点と線』。小説のなかの列車の時刻表を使ったトリックを着想したのは、松本清張が1956年頃にホテルに度々逗留し、客室から見渡せたプラットフォームを見ていた際だったといわれています。

屋根材の一部には創建時と同様、良質な硯で知られる宮城県雄勝産の天然スレート(粘板岩)が使われている。

川端康成は同じく1956年に1カ月ほど滞在し、小説『女であること』を執筆。同作は後に原節子主演で映画化され、しばらく映画に使われた客室の予約が殺到しました。また、大の鉄道好きだった随筆家の内田百閒はホテルを定宿にし、江戸川乱歩は推理小説『怪人二十面相』で名探偵明智小五郎と怪人が虚々実々の駆け引きをする場面を、客室を舞台にして描きました。現在、客室に置かれたメモ用紙には原稿用紙のような升目が入り、左下には昔のロゴがそっとあしらわれています。

過去に敬意を払いながら
新しい歴史を紡ぎ始めた東京ステーションホテル

2007年には歴史的建造物を未来に残し、活用するための大規模な保存・復原事業が開始され、2012年に完成しました。リニューアルにあたり大切にしたのは「スペックではなくストーリーを届ける」という思いだったそうです。創業時の素材や工法をできるだけ甦らせたいという思いから、屋根材の一部には創建時と同様、良質な硯で知られる宮城県雄勝産の天然スレート(粘板岩)が使われています。インテリアを手がけたのは歴史的建築物の再生に豊富な実績のある、イギリスのリッチモンド・インターナショナル社。ヨーロピアン・クラシックスタイルを基調に、駅舎の壮麗さと調和する空間をつくり出しています。

南ドームの奥にある螺旋階段。手すりの繊細な装飾が美しい。
都会の喧噪を感じさせない静けさに包まれた廊下。リッチモンド・インターナショナル社がデザインした上質な絨毯が敷き詰められている。

現在の客室数は全150室。メゾネットを含む多彩なタイプがありますが、駅舎の南北ドームに面した「ドームサイド」は特に人気が高いといいます。丸の内駅舎の保存・復原事業で甦った美しいドームレリーフを部屋の窓からもっとも間近に眺めることができ、約4mという高い天井と相まって、まるで美術館のなかにいるような心持ちになります。

アーカイブバルコニーから見た駅舎南側ドームの内部。鷲や十二支、豊臣秀吉の兜などのレリーフで装飾されている。
リビングと寝室に分かれた、2階建て客室のメゾネットスイート。パープルを基調としたインテリアが上品な雰囲気を演出する。客室のシャンデリアはすべて特注で、部屋タイプごとにデザインが異なる。

イギリスを代表するライフスタイルブランド「ローラ・アシュレイ」のデザインに囲まれたコラボレーションルームが、2024年5月までの期間限定で用意されています。

「東京ステーションホテル」には10のレストラン&バーがあります。フランス料理の「ブラン ルージュ」では全国から旬の食材を厳選して仕入れ、フレンチの技法をベースにしながら和の要素や野菜などもふんだんに取り入れた“日本のフランス料理”が楽しめます。宿泊客が楽しみにしている朝食は、かつて駅舎の屋根裏だったスペースを利用した「ゲストラウンジ アトリウム」で供されます。

400m2を超える空間に高さ9mの天窓から自然光が降り注ぐ「アトリウム」。屋根をガラスに仕様変更する申請が通るまでに4年半かかった。

100アイテム以上もの料理を揃えた朝食ビュッフェを味わえ、エッグベネディクトやオムレツなどつくりたてを味わえるライブステーションも充実していて、駅舎創建時の赤レンガを間近に眺めながら、1日の始まりを優雅に過ごすことができます。

駅舎の赤レンガを彷彿とさせるヴァルカン・ファイバーの「レッド」が魅力的なホテルのオリジナル商品。

東京、そして日本の玄関口にある「東京ステーションホテル」では、旅をテーマにした多くのサービスを実施していますが、現在、イギリスの名門ラゲッジブランド「グローブ・トロッター」とのコラボレーションにより、赤レンガの駅舎をモチーフにしたオリジナルスーツケースとミニトランクがホテルのオンラインショップで限定販売されています。購入特典でオリジナルカードケースがついてきます。

その歴史と固有性があってこそ、さまざまな新しい魅力を纏いつつ、輝きを増していく「東京ステーションホテル」。遠方からの旅人はもちろん、近郊にお住まいの方も、普段知っているはずの東京とはひと味違った東京の顔に出合うための場所として、訪れてみてはいかがでしょうか。

このホテルの魅力

  • 1915年、東京駅丸の内駅舎内に開業。関東大震災や東京大空襲を乗り越えて営業を続け、2003年には駅舎が国の重要文化財に指定されたことから、重要文化財に宿泊できる国内初のホテルに。
  • 赤レンガと美しいドームレリーフが印象的で、松本清張や川端康成、内田百閒ら多くの文豪に愛された。客室が小説や映画の舞台になったことも。
  • 歴史的建造物を未来に残し、活用するための大規模な保存・復原事業が行われ、2012年にリニューアル。ヨーロピアン・クラシックスタイルを基調に、駅舎の壮麗さと調和する空間を創出。
  • 客室は、メゾネットを含む様々なタイプがあり、駅舎の南北ドームに面した「ドームサイド」が人気。丸の内駅舎の保存・復原事業で甦った美しいドームレリーフを部屋の窓から望める。
  • 10のレストラン&バーがあり、フレンチレストラン「ブラン ルージュ」では和フレンチ、かつては駅舎の屋根裏だったゲストラウンジ「アトリウム」では100品以上並ぶ朝食ビュッフェに舌つづみ。